「600万円値引きします」…住宅の概算見積 書が恐しすぎるワケ

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「詳細見積は出せませんが、契約後に概算見積から600万円値引きしますよ…」と言われたら? *本記事は、兼坂成一氏の著作『人生が変わる家づくり 一生気持ちよく暮らせるマイホーム』(幻冬舎MC)から抜粋、再編集したものです。
「坪数の基準」は会社ごとに異なっている!?

寿司のメニューのように、家にも上・中・並といったランクがあります。それは、大きさを比べるようなものではなく、居住性、仕上げ材、設備機器などがランク付けされているのです。よほど財力のある人でない限り、全てを上ランクにするのは困難です。

このため、建て主は何を優先させるかを選ぶことになります。やはり、居住性能は特上にしたいものです。

建て主に「予算は3000万円」と伝えられて、4000万円の見積もりを出す住宅メーカーはありません。しかし、「その家なら2000万円で建つ」と考えた場合でも、住宅メーカーの担当者は「2000万円で建ちますよ」とは伝えず、設備のランクを上げて見積額が3000万円に収まるようにプランニングするでしょう。

建築費を比較する際に一般的に用いられている物差に「坪単価」があります。モデルハウスを見学している方から「坪単価はいくらですか」とよく質問をされます。

「坪単価」とは建物本体の価格を床面積(坪数)で割った数値です。また気に入った会社の「坪単価」を聞いて計画建物の坪数を掛ければおよその必要資金が分かるという、一見便利な言葉です。

ところがこの「坪単価」というものほどあいまいで、会社ごとに含まれる内容が全く異なっている言葉もないので気をつけなければなりません。

「坪単価」には建物自体の費用のほかに設計料、建築確認申請の手続費や、足場や現場用トイレなどの仮設工事費、現場管理費などが含まれている会社もあれば、一部又は全部が含まれていない会社もあります。

さらに恐ろしいことに、そもそも単価に掛け合わせる「坪数」の基準自体が、会社ごとに異なる「施工面積」の坪数なのです。建築基準法上は厳密な「床面積」の定義はあるのですが、それではなく会社独自に定める「施工面積」によって坪数を算出しています。

バルコニーや玄関ポーチの屋根までカウントする会社も

例えば明らかな建物の坪数の他に、バルコニーや玄関ポーチの屋根といった部分の面積までを坪数とカウントする会社があります。

その場合、特に依頼したわけでもないのにやたらと大きなバルコニーが提案されていることがあります。ぱっと見では坪単価が安く見えても、坪数自体が明らかに大きく、実際には掛け算をすると特別安くはなかったというケースがあるのです。

我々プロでも他社の坪単価を聞いてもその会社が高いのか安いのかはまったく分かりません。どれが正しいということでは無く、単に会社ごとに考えが違うというのが実情なのです。
「600万円値引きできる」という見積書

「ご契約後に、概算見積から600万円値引きしますよ…」(写真はイメージです/PIXTA)

その他、玄関ドアや階段、キッチンや浴室、洗面台、トイレ機器など家の広さに比例しない部分があることも、覚えておいてください。

一般的な住宅では、こうした建物の大きさに比例しない部分の合計が600〜1000万円になります。建物面積に比例しない部分の金額を床面積で割れば、床面積の小さな家は割高に、大きな家は割安になります。

ですが、概算見積はあとでいくらでも変更できるので、この段階で作成しても意味がありません。

というのも、住宅メーカーの概算見積の多くは、坪数から算出した本体価格と、その下にオプションの説明が数行、さらにその下に給排水やエアコン、ガス設備といった工事費用を並べ、最後に合計額を記したものです。

肝心の金額の詳細内容(内訳)は、契約後に渡されるケースもあります。本来であれば、詳細見積もりは契約前に提出してもらい、その中身をじっくりチェックしたいところです。

自動車免許を所有する人は、クルマを購入するときの見積書を思い出してください。オプションで取り付けられる装備、重量税、車両税など、家の概算見積よりもずっと詳しく書いてあるはずです。

以前、一戸建ての建築予算を2000万円に設定した建て主がいました。その建て主は、「契約前に詳細見積もりを出してほしい」と住宅メーカーの担当者に要求しました。すると、担当者は「詳細見積は契約後でないと出せない。その代わり概算見積から600万円値引きする」と返答したそうです。

その住宅メーカーの家づくりはパッケージ式で、担当者は内容の詳細を理解していないため、詳細な見積もりを出すことができないのだと思います。いずれにしても、詳細な見積もりをつくることに、大変消極的な態度であることは明白です。

そもそも600万円も値引きできる見積もりとは何なのでしょうか? あってないような、建て主をバカにした見積書です。

下職に支払う金額をカットする、またはより安い下職に発注してしまう、または契約後に追加工事で法外な費用を頂戴する場合もあります。結局値引きで損をするのは発注者となるのです。いくら値引きをしてもらっても製品に変わりはない自動車と、住宅とは全く違います。

概算見積もりではなく「詳細見積もり」の要求しよう

もっとひどいエピソードはいくらでもあります。契約が完了するまでは仕事熱心で人当りのよい住宅メーカーの営業が担当し、契約後は会ったこともない現場監督やインテリア担当などと最初から打ち合わせをさせられることもあります。営業担当者は次の契約にかかりきりになり、二度と顔を出さないケースもあるようです。

契約後に登場したインテリアコーディネーターは住宅メーカーから発注を受けた派遣会社の社員で、オプションとして家具やカーテンなどの売り込みに必死になります。それが、インテリアコーディネーターの歩合となるからです。その勢いに押されてオプションを追加してしまうと、建築費用もどんどん膨れ上がるという仕組みです。

それでは価格を尋ねるときにはどう質問をしたらよいでしょうか。それは「およそX坪のY階建ての建物を建てたら総額でいくらぐらいになりますか?」と建築計画全体の価格を教えてもらうことです。もしくは、「概算見積」ではなく、「詳細見積もりを出せますか?」と要求しましょう。するとその会社のさまざまな事情が見えてきます。
「すぐに詳細見積もりを出してくれ」は無茶な話

坪単価に何が含まれていようが関係なく、その会社が考える建物本体以外の費用や、さらに通常でも建物本体に含めないことの多い水道や下水の取出し工事、屋外給排水設備、屋外ガス配管設備、カーテン工事、照明器具工事、エアコン設置工事など、およその金額を足してもらった総額を確認すればよいのです。

その他に外構工事や、建物の取り壊しがあるならば解体工事、仮住まいの費用などを考慮すれば、おおまかな必要資金の目安が分かります。

とはいえ、相談に訪れた建築会社の担当者に「坪数がこれだから、すぐに詳細見積もりを出してくれ」というのも無茶な話です。先にも説明しましたが、建て主がどんな家を建てたいのかは打ち合わせを重ねないと見えてこないからです。

建て主がイメージする「快適な家」の中身を一つずつ確かめたうえでないと、詳細な見積もりなどつくりようがありません。ときには打ち合わせに数か月かかることもあります。

最初は詳細見積もりを出せるかどうかの確認を取る程度でいいでしょう。

そのために、会社選びの段階で多くのモデルハウスに足を運び、「こんな家で暮らしたい!」と思える会社を探してください。理想がかち合う会社とは、打ち合わせを行う中で互いに信頼関係を築いていくこともできるでしょう。

決して「坪単価いくら」の概算見積で選んだ会社と話を進めないでください。

兼坂 成一

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