韓国の「優れた」コロナ対策を模範にできない理由

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新型コロナウイルスによる死者数を300人以下に抑制した韓国政府の対応は、世界から称賛されている。だが、各国がそれを模範として導入できるかと言えば、それはまた別の問題だろう。韓国では5年前に導入された法律により、裁判所の令状なしで幅広い個人情報を入手する権限が当局に認められているのだ。

韓国では様々な個人情報が新型コロナ感染対策に活用されている。それに対しプライバシーの侵害を恐れる人々から懸念の声が上がっている携帯電話の位置情報やクレジットカードの利用履歴、そして監視カメラ映像を使い、1時間以内に感染の疑いのある人を追跡することができるという。この迅速な対応は、世界で最も先端的な取り組みといえよう。

このシステムは3月に導入された。複数の省庁間の障壁を取り払い、情報を共有することに成功した。このシステムは、もともと韓国の「スマートシティ」構想のために開発されたもの。地方自治体が人口や交通量といった情報を共有する目的で作られた。

京畿道の感染症対策担当ユン・ドクヒさんはこう語る。

「このシステムを使えば、携帯電話のGPS情報やクレジットカードの履歴を20―30分で入手できるので、これまで2―3日程度かかっていた疫学調査の時間が短縮され、感染症の拡大を防ぐことができる」

このシステムの実力が最初に試されたのは、今月ソウルのナイトクラブで発生した集団感染だった。ここで少なくとも196人が感染した。

「梨泰院のクラブを訪れた人々のクレジットカード履歴すべてにアクセスした。クラブの客はすべて感染の疑いがあるため、特定の人々のカード履歴を調査した。さらにわれわれはGPS位置情報を申請し、特定の時間帯に当該地域に1時間以上滞在した人全員のリストを入手した」(ユンさん)

5年前に成立した法律により、韓国当局には個人情報を入手する権限が与えられた。この感染症予防管理法は、韓国が中東呼吸器症候群(MERS)に見舞われた教訓として導入された。この法律により、保健当局は裁判所の令状がなくても幅広い個人情報にアクセスができる。

京畿道のイ・ジェミョン知事は、こうしたシステムの使用は目下のパンデミックのような公衆衛生上の緊急事態のみ認められると話す。

「こうしたシステムは欧米の価値観とは相容れないものがあるかもしれない。だがわが国は国民のほぼすべてがスマホを使用し、最先端のIT業界を擁している。そのため、ある時点で特定の地域の中継器を利用したすべてのスマホの記録にアクセスすることができる。これは確かにとても恐ろしい現実だ。こういった情報は、病気のまん延といった危機に限定して利用されるべきだ

多くの国々で、患者の個人情報を明かすことなく追跡ができるアプリが開発されている。だが韓国は、よりプライバシーに踏み込んだ解決法を選択した。市民に感想を聞いてみたところ、評価する声がある一方でプライバシーに対する懸念の声も聞かれた。

「患者がどこに住んでいるのか、どこに行ったのか、何にお金を使ったのかを人々に知らせるのはプライバシーの侵害だが、当局だけが知っている分にはいいと思う」

「プライバシーを守ることも大切だが、韓国でも国際社会でもいまはプライバシーの問題はわきに置いておくべきだ。人の命は個人のプライバシーよりも大切だからだ。確かにプライバシーは大事だが、感染症予防はもっと大事だ」

韓国で新型コロナにより死亡した人の数は267人。他国に比べて大きな成果を挙げたと言えよう。だがその代償として個人情報を丸裸にするシステムを各国が導入できたかと言えば、それはまた別の問題だろう。

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