危機管理「根回しはきちんとやったほうがいい」 感染者ゼロの岩手県・達増拓也知事に単独インタ ビュー【3】

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2011年に東日本大震災で甚大な被害を受け、死者数死者4675人、行方不明者1122人(2020年6月10日時点、警視庁)の人的被害を被った岩手県。その教訓を生かし、危機管理に秀でた達増拓也知事が陣頭指揮を執り、県民は新型コロナウイルスに立ち向かいました。現在も感染者は0人ですが、感染者が出た場合の備えも整っていると言います。まいどなニュースは同知事に、列島が極端なマスク不足に陥ったころに講じた対策に加え、政府や東京都、大阪府の対策についても話を聞きました。

■手作り布マスクは30種類

――知事が布マスクを使い始めたのも早かったと思うのですが。

達増拓也知事(以下、達増知事) 2月頃から布マスクを使っていました。市販の不織布マスクが全然店頭に並んでいない、マスク不足だと言われるようになった頃です。「では、手作りマスクにします」と言って使い始めました。

日本のマスクの8割くらいは中国からの輸入に頼っていたということだったので、小売や流通からマスクがなくなるのは当然だし、当分回復しないと思ったのです。一方で、医療の現場には医療用マスクが必要でした一般の人たちが普段の生活や職場で使うのは、基本的に手作りマスクにしましょうと言いました。

呼びかけの主旨を理解してもらうためにも手作りマスクを使うようにしたのです。岩手では農家の人たちがマスクを作って産直市場・道の駅で売るのが結構盛んでしたし、手芸が趣味の人たちが手作りマスクを作って手芸の店などで売るなど、結構あちらこちらで販売されていたのです。

――知事はどんなマスクをお使いなのでしょうか。

達増知事 私は30種類くらい手元に持っているので、それを代わる代わる着けています。今日は一関市の老舗の染物店「京屋染物店」の手ぬぐいマスクをしています。

――柄も素敵ですね。

達増知事 これは青海波(せいがいは)といって未来永劫、平和な暮らしが続くようにという意味のある柄なんです。

■危機管理には「絶対に成功させるという覚悟」と根回しが不可欠

――日本政府の対策についてはどのように思われますか。

達増知事 アベノマスクの配布や3月2日からの全国一斉休校など、官邸側近や総理と一部の人たちだけで決めたことが、その後問題になったり困難を引き起こしたりしました。

一律10万円給付するというアイデアが当初からあったにも関わらず、官邸側近との話し合いの中、条件付きで30万円にしたというように聞いています。その後、野党や公明党の意見を聞いて再び一律10万円に戻した。やはり、多くの人たちの意見を聞きながら物事を決めていくことが大事なのだと思います。

――東京都や大阪府の対策についてはいかがでしょうか。

達増知事 岩手県と違って感染者も大勢いますし、病院も危機的状況となって大変だろうなと思いながら拝見していました。

やはり専門家の意見や多くの人たちの意見を参考にしながら決めて進めていくとうまくいくのだと思います。一部、政府との調整をあまりしないまま決めたりすると後からバタバタするのかなと思いながら見ていました。

危機管理は「やると決めたら絶対に成功」させなければなりません。必ず成功するように根回しはきちんとやったほうがいい

■勝海舟の「無血開城」「焦土作戦」

――必ず根回しが必要なのですね。

達増知事 公表する時には、確実に実行に移すことができ、みんなその通りにやれるというお膳立てをしてから公表したほうがいいと思います。

幕末、薩摩長州の官軍が江戸に攻めて来た時、勝海舟が西郷隆盛と談判して江戸城を明け渡しが決まりました。その時、勝海舟は、もしも官軍が言うことを聞いてくれなかったら、江戸を火の海にする準備をしていたそうです。

勝海舟は、火消しをしていた新門辰五郎と日頃から仲良くしていたのですが、火消の人たちに火をつけさせ、江戸前の漁をしている漁師たちの船に江戸の人たちを乗せて、どんどん千葉のほうに逃がそうとしたのです。任侠(当時のやくざ者)の親分とも親しかったので、そういう人たちに治安の維持を任せようとしました。いざとなったらそういうことができるお膳立てをした上で西郷隆盛との談判に臨んだのです。

やはり危機管理においては、あらゆる団体や組織をフルに動かして合意を得て、「いざ動かすぞ」という時に速やかに動かせるようにしてから、正式に発表したり交渉したりするということがポイントになります。

県の幹部会議で幹部職員にこの話をして、それぞれ担当の団体や組合などと普段から十分意思疎通をして、何かあったらお願いできる、動いてもらえるような関係を日頃から築いておくように言っています。

■第2波、第3波を防ぐ鍵は水際対策

――第2波、第3波が来るのではないかと懸念されていますが。

達増知事 3月、4月あたりの日本における感染者数の山を見ますと、欧米を中心とした帰国者からの感染の山が日本全体の感染者の山を作り出しているところがあります。帰国者の感染者数が減り始めたところで、国内の感染者数も減り始めているのです。

重要なのは水際対策です。海外から感染者が大勢入ってこないようにすれば、同じような山はもうできないと思っています。

日本国内で感染者数が減少すると、海外との往来を始めようかという話になってきますが、そこをうまくコントロールして、外国から感染者がどどっと入ってこないようにする必要があります。

いま北九州や札幌で起きているようなぶり返しというのは、あちらこちらで時々起きるのでしょうけど、第2波というくらいの大きな山はできないと思います。

――海外からのウイルスの流入を防ぐ、水際対策が重要なのですね。

達増知事 政府が先頭に立ってしっかり水際対策を講じ、そこがきちんとできていれば、地方はぶり返しに注意すればよい。一人、二人の感染がいつ起きるか分からない、クラスターが起こるかもしれないという想定のもと、そこに丁寧に対応するよう気を付けておいて、さらに、そうしたことが起こらないよう感染対策を住民の皆さんや企業、事業者、病院などの施設にお願いすれば、それほど大きな事態にはならないと考えています。

――岩手県としては、いままでと変わらない感染対策を粛々と行うのでしょうか。

達増知事 そうですね。感染対策としては、軽症者用のホテルや旅館などの宿泊施設を確保し、そこに軽症者を入れてもらう手配は既にしてあります。いまのところ感染者は出ていませんが、いつ出てもいいように、そういうところはきちんとやっています。

◆達増拓也(たっそ・たくや)1964年6月10日生まれ。岩手県盛岡市出身。東京大学法学部を卒業後、1988年に外務省入省、91年米国ジョンズ・ホプキンス大学国際研究高等大学院修了。衆議院議員(連続4期当選)を経て、2007年岩手県知事、現在4期目。2012年度ベスト・ファーザー イエローリボン賞。尊敬する人物は新渡戸稲造、好きな言葉は「浩然の気」、趣味は合唱、テニス。血液型O。

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)

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