コロナの全米で人々を感動させた「クオモ知事の スピーチ」その凄すぎる中身!

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コロナで「評価が割れた」世界のリーダーたち
写真:現代ビジネス

新型コロナ・ウイルスの襲来で、リーダーの指導力が試された。人間力もあぶり出された。

【写真】「コロナで『死ぬリスク』が高い人の共通点は…」米専門機関が警鐘!

ドイツのメルケル首相やニュージーランドのアーダーン首相は、すばらしいリーダーだと評価が高まった。ブラジルのボルソナロ大統領やアメリカのトランプ大統領は、迷走ぶりが際立った。

そんななか、ひときわ注目を集めたのが、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事である。

アメリカは、イタリアやスペインを追い越し、世界最大の感染国となった。とりわけニューヨーク州は、3月から4月にかけて、感染が爆発した。

クオモ知事は、その陣頭に立って、コロナとの闘いを指揮した。3月初めから毎日、記者会見を行なった。コロナとの闘いでは、市民への情報提供、市民の協力が欠かせない、と確信していたからである。それがCNNで中継された。

クオモNY州知事の記者会見は、「勇気づけられる」「癒される」「リーダーはかくあるべき」と評判になり、スピーチを心待ちにする人びとが全米に拡がった。

クオモ知事のスピーチは、パワースピーチのお手本である。パワースピーチとは、ひとを動かす、本物のリーダーのスピーチのこと。

ポスト・コロナの混迷の時代を導くリーダーに、不可欠の能力である。世の中には、パワースピーチというものがあるのだ! これを知っているだけでも、未来に光が射してくる気がするではないか。

注目集めたNY州クオモのスピーチ
アンドリュー・クオモは、1957年12月生まれの62歳。民主党員で、2011年からNY州知事を務めている。クリントン政権では、住宅都市開発長官だった。イタリア系のカトリック教徒で、父のマリオもかつてNY州知事。弟のクリス・クオモは、CNNのキャスターを務めている。

記者会見は毎日、昼前から始まる。およそ1時間、土日も休まない。準備を含めて、かなりの負担だと思うが、市民にメッセージを伝えることが、リーダーの役割だと覚悟を決めているのだろう。一見いかつい印象だが、ユーモアがあって、わかりやすい英語で淡々と、ときに熱く語りかける。

クオモの会見は、YouTubeで観ることができる。たくさんあるが、私のお勧めは3月21日と3月27日のスピーチだ(もしもリンクが切れていたら、Governor Cuomo, March 21などと検索を)。

記者会見はふつう、州都オールバニーの庁舎で開く。中央にクオモ知事。左右に、プロジェクター。感染の状況などデータをスライドで映す。

会見は三部に分かれているデータの確認(事実)→知事の考え(意見)→質疑応答。最初の部分はプレゼン形式で、まるで学会報告のようだ。感染者数や、コロナ・ウィルスの特徴。事実や科学は、立場の違いによらない。誰もが認めるべき、基本前提である。

情報は、州政府に集まるのだから、それをしっかり共有する。それから、みんなで考えましょう。意見を言いましょう。合意して行動しましょう。民主主義のステップを、きちんと踏んで行く。

事実/意見、をまずわける。事実は、誰もが踏まえる。意見は一人ひとり違っている。意見が違うから、議論や、投票をする。相手に敬意を持ちつつ、最善の結果に向けて共同で行動する。民主主義のマナーだ

メディアの裏側で、フェイクニュースがはびこるようになった。事実がいく通りもあったのでは、民主主義が成り立たない。まず事実を踏まえるのは、そうした危機感の表れである。

「事実」と「意見」を分ける
photo by GettyImages

3月21日の記者会見では、特に若い人びとに、こう語りかける。

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あなたは、自分の意見があるでしょう。でも、自分だけの事実をもつことはできません。よね? あなたは自分の意見を持ちたいし、自分の意見を持っている。でも自分だけの事実をもつことはできないんです。

「どうせ、若者はこの病気に罹らないんだし。」間違いです。NY州では感染者の54%が、18歳〜49歳です。あなたは、スーパーマンでもスーパーウーマンでもない。ウィルスに感染し、ウィルスを運んで、うっかり大事な誰かを傷つけたり、知らない誰かを傷つけたりする破目になるんです。
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とてもわかりやすい。

3月27日の記者会見は、いつもの庁舎ではなく、完成したばかりの野戦病院で開かれた。NY市のイベント会場「ジャヴィッツ・センター」を、陸軍工兵隊やNY州兵の力を借りて、一週間の突貫工事で1000床の病院に改造したのだ! 感染のピークを控え、同じ規模の野戦病院をあと4箇所つくる。その第一号である。

クオモ知事の前には、いつもの新聞記者でなく、迷彩服の州兵の男女が間隔を空けて座っている。任務に邁進した彼らをねぎらって、クオモ知事は感動的な言葉をかける。英語と日本語の両方で味わってもらおう。

「私自身がやりもしないようなことを、やれとは言わない」
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This is a different beast that we’re dealing with. This is an invisible beast, it is an insidious beast, this is not going to be a short deployment. This is not going to be that you go out there for a few days, we work hard, and we go home. This is going to be weeks and weeks and weeks. This is going to be a long day and it’s going to be a hard day and it’s going to be an ugly day and it’s going to be a sad day. This is a rescue mission that you are on.
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われわれが向き合っているのは、別もののケダモノだ。目に視えないケダモノだ。油断のならないケダモノだ。この戦いは、短期間で片づかないだろう。何日間か出て行って、がんばって、さあ家に帰れる、みたいには行かないだろう。

これには何週間も、何週間も、何週間もかかる。これは、長い日になるだろう。辛い日になるだろう。ひどい日になるだろう。そして、悲しい日になるだろう。あなたがたは、人命救助の任務に就くのだから。
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The mission is to save lives, that’s what you’re doing. The rescue mission is to save lives. And as hard as we work, we are not going to be able to save everyone. And what ’s even more cruel is this enemy doesn’t attack the strongest of us, it attacks the weakest of us, it attacks our most vulnerable, which makes it even worse in many ways because these are the people that every instinct tells us we’re supposed to protect. These are our parents and our grandparents, these are our aunts, our uncles, these are our relative who is sick, and every instinct says protect them, help them, because they need us. And those are the exact people that this enemy attacks. Every time I have called out the National Guard, I have said the same thing to you. I promise you I will not ask you to do anything that I will not do myself and I’ll never ask you to go anywhere that I won’t go myself. And the same is true here. We are going to do this, and we are going to do
this together.
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この任務は、人命を救うこと。みなさんがやるのは、まさにそれだ。レスキューは、命を救うこと。力の限りを尽くしても、命を、ひとり残らず救うことはできない。そして、もっと理不尽なのは、この敵は、われわれのうちいちばん強いものではなく、いちばん弱いものを襲うことだ。

この敵は、いちばん弱いものを襲う。ひどすぎる。そういう人びとこそ、何とかして守らなくてはとわかっているのだから。

そういう人びとは、われわれの両親である。祖父母である。おばやおじである。親戚である。病気があって、守らなければ、助けなければ、と思うような人びとだ。そうした人びとは、われわれの助けが必要なのだ。そうした人びとこそ、この敵は襲うのである。

私がNY州兵に招集をかけるたびに、いつも同じことを言ってきた。私は約束する。私はみなさんに、私自身がやりもしないようなことを、やれとは言わない。私自身が行こうと思わないようなところに、行けとも言わない。

今回も同じだ。さあ、とりかかろう。これを一緒にやろう。

「あなたたちは誇っていい」

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You are living a moment in history. This is going to be one of those moments they are going to write about, and they are going to talk about for generations. This is a moment that is going to change this nation. This is a moment that forges character, forges people, changes people, make them stronger, make them weaker, but this is a moment that will change the character and 10 years from now, you’ll be talking about today to your children or your grandchildren and you will shed a tear because you will remember the lives lost and you will remember the faces and you’ll remember the names and you’ll remember how hard we worked and that we still lost loved ones. And you’ll shed a tear and you should because it will be sad. But you will also be proud. You ’ll be proud of what you did, you’ll be proud that you showed up, you showed up. When other people played it safe, you had the courage to show up and you had the skill and the professionalism to make a difference and save
lives. That’s what you will have done. And at the end of the day, nobody can ask anything more from you. That is your duty, to do what you can when you can. And you will have shown skill and courage and talent, you will be there with your mind, you will be there with your heart and you will serve with honor and that will give you pride, and you should be proud.
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あなたがたは、歴史の瞬間を生きている。これは、歴史に書かれ、人びとが何世代にもわたって語り継ぐ瞬間の、ひとつになるだろう。これは、この国を変える瞬間である。これは、性格をつくり、人びとをつくり、人びとを変え、人びとを強くし、人びとを弱くする。けれどもこれは、性質を変える瞬間だ。

いまから10年あと、あなたたちは今日のことを、子供たちに、孫たちに、話すだろう。そして、涙を流すだろう。なぜなら、失われた命を思い起こすから。いくつもの顔を思い出すから。名前を思い出すから。どんなにがんばってわれわれが働いたか思い出すから。そしてそれでも、大事なひとを亡くしたことを思い出すから。あなたがたは涙を流す。悲しいのだから、当然だ。

でも同時に、あなたたちは、自分のやったことを誇りに思う。手を挙げたことを誇りに思う。手を挙げた。ほかの人びとが安全でいるときに、勇気を出して手を挙げ、技術と専門知識をもって、「違い」を造り出した。そしていくつもの命を救った。それが、これからあなたたちがやることだ。そしてその日の終わりに、ほかの誰もあなたたちに、もっとできたのに、と言ったりしない。

できるときに、できることをする。それがあなたたちの義務だ。あなたたちは、技術と勇気と才能をみせた。あなたたちは、理性をもってそこにいた。気持ちをこめてそこにいた。名誉をもって任務を果たした。これは、あなたたちの誇りとなる。あなたたちは誇っていい。
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クオモのスピーチはどこがパワフルか
写真:現代ビジネス

ここに紹介したのは、この日のスピーチのクライマックスの部分。YouTube で映像をみていて、ここに来るとじんとしてしまう。

わかりやすい英語だ。小学生でもわかるだろう。でも、言葉が選び抜かれている。考え抜かれている。言うべきことをしっかり言い、余計なことを一切言わない。リーダーとしての任務がみえている。責任と自信があふれている。

こういうスピーチを、パワースピーチと言おう。日本に足りないのは、パワースピーチだ。パワースピーチが日本をよくする。真にそう思う。

でもその前に、パワースピーチを聞きたい、と人びとが思わなければならない。そういう人びとが増えるから、パワースピーチを語りかけ、言葉で現実を切り開くリーダーが登場する。

橋爪 大三郎(社会学者)

事実や科学は、立場の違いによらない。
ココが一番重要。知識無き思い込みは、意見ではない。

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