テロではなく富士山噴火でクラウド破壊か>京大 火山学の権威が断言「富士山に大異変」…コロナ 後に「日本沈没」は現実だ

Snagit1_178.png
Yahoo!ニュース
Yahoo!ニュース Yahoo!ニュースは、新聞・通信社が配信するニュースのほか、映像、雑誌や個人の書き手が執筆する記事など多種多様なニュースを掲載しています。

■富士山に何が起こる? 

 富士山が日本一の活火山であることは広く知られるようになった。そんな富士山がこのコロナ禍のなかで噴火したらどうなるかが話題となっている。今年4月に政府の中央防災会議が富士山噴火のシミュレーション結果を発表したのだ。

【図版】富士山の地下構造と噴火前に起きる現象。

 富士山は江戸時代の1707年に大噴火した。「宝永噴火」と火山学者が呼ぶもので、近い将来に同じ規模の噴火が起きた場合、首都圏が大混乱に陥る。2〜10cmの火山灰が降り積もると予想されているが、もしレールの上に火山灰が0.5mm積もると鉄道は運行できない。

 加えて雨が降ると、送電線に付着した火山灰によりショートして、東京・神奈川・千葉・埼玉で大規模な停電が発生する。同時に携帯電話の基地局の電源も切れ、スマホやネットが使用不能になり、3時間ほどで都市機能がまひすると見られる。さらに火山灰はガラス質の細かい破片なので、舞い上がると目やのどを激しく痛めることになる。

 本稿では、そもそも富士山の噴火とはどういう現象なのか、地下で何が起きているのかということについて基本から解説する。降ってくる火山灰におびえるだけでは的確な対処ができないからだ。
1/3

富士山の地下構造と噴火前に起きる現象。鎌田浩毅著『日本の地下で何が起きているのか』(岩波科学ライブラリー)による。

■富士山の噴火は予測できるか

 最初に富士山が噴火するメカニズムを見ていく。現在、富士山の地下約20kmにはマグマで満された「マグマだまり」がある(図表1)。ここには1000℃に熱せられた液体マグマが大量に存在し、それが地表まで上がると噴火が始まる。

 噴火の前には前兆現象が観測される。まず、マグマだまり上部で「低周波地震」と呼ばれるユラユラ揺れる地震が起きる(図表1のa)。これは人体に感じられない小さな地震で、しばらく休んでいたマグマの活動が始まったときに起きる。

 さらにマグマが上昇すると、通路(火道)の途中でガタガタ揺れるタイプの地震が起きる。人が感じられるような「有感地震」である(図表1のb)。地震の起きる深さは、マグマの上昇にともない次第に浅くなっていくので、マグマがどこまで上がってきたかがわかる。

 その後、噴火が近づくと「火山性微動」という細かい揺れが発生する(図表1のc)。マグマが地表に噴出する直前に起きるため、「噴火スタンバイ」状態になったことを示す。

 富士山の地下ではときどき低周波地震が起きているが、マグマが無理やり地面を割って上昇してくる様子はまだない。噴火のおよそ数週間から1カ月ほど前にこうした現象が起き始めるので、事前に噴火を把握することができる。

■首都圏が機能停止するまで

 1707年の宝永噴火では大量の火山灰が富士山の東方面に飛来し、横浜で10cm、江戸で5cmも積もった(写真)。火山灰は2週間以上も降りつづき、昼間でもうす暗くなったという。

 今、富士山が大噴火したら江戸時代とは比べものにならない被害が予想される。火山灰が降り積もる風下に当たる東京湾周辺には、多くの火力発電所が設置されている。ここで使用されているガスタービン中に火山灰が入り込むと、発電設備を損傷する恐れがある。

 また、雨に濡れた火山灰が電線に付着すると、碍子(がいし)から漏電し停電に至ることがある。すなわち、火山灰は首都圏の電力供給に大きな障害をもたらす可能性があると言える。

 同様に、細かい火山灰は浄水場に設置された濾過装置にダメージを与え、水の供給が停止する恐れもある。大都市のライフラインに火山灰が及ぼす影響が心配されるのだ。

 さらに室内に入り込むごく細粒の火山灰は、花粉症以上に鼻やのどを痛める可能性がある。目の角膜を痛めたり気管支炎を起こしたりする人も続出し、医療費が一気に増大するだろう。

 富士山の近傍では、噴出物による直接の被害が予想される。富士山のすぐ南には、東海道新幹線・東名高速道路・新東名高速道路が通っている(図表2)。もし富士山から溶岩流や土石流が南の静岡県側に流れ出せば、これら3本の主要幹線が寸断される。首都圏を結ぶ大動脈が何日も止まれば、経済的にも甚大な影響が出るに違いない。さらに、富士山の裾野にはハイテク関係の工場が数多くある。細かい火山灰はコンピューターの中に入り込み、さまざまな障害を起こす可能性が考えられる。

火山灰は航空機にとっても大敵である。上空高く舞い上がった火山灰は、偏西風に乗ってはるか東へ飛来する。富士山の風下には約3500万人の住む首都圏があり、羽田空港はもとより、成田空港までもが使用不能となる。何十日も舞い上がる火山灰は、通信・運輸を含む都市機能に大混乱をもたらすだろう。

 かつて火山の噴火が、国際情勢に影響を与えたことがある。1991年のフィリピン・ピナトゥボ火山の大噴火では、風下にあった米軍のクラーク空軍基地が火山灰の被害で使えなくなった。

 これを契機に米軍はフィリピン全土から撤退し、極東の軍事地図が書き換えられた。将来の富士山の噴火によって、厚木基地をはじめとする在日米軍の戦略が大きく変わる可能性もあるのだ。

 富士山が噴火した場合の災害予測が、内閣府から発表されている。富士山が江戸時代のような大噴火をすれば、首都圏を中心として関東一円に影響が生じ、最大で総額2兆5000億円の被害が発生するという。

 これは2004年に内閣府が行った試算であるが、東日本大震災を経験した現在では、この試算額は過小評価だったのではないか、と火山学者の多くは考えている。富士山の噴火が首都圏だけでなく関東一円に影響をもたらすことは確実だ。まさに、富士山の噴火は日本の危機管理項目の一つと言っても過言ではない。

■巨大地震と富士山噴火の連動

 火山の噴火は巨大地震によって引き起こされることがある。2030年代に発生が予測されている南海トラフ巨大地震が、富士山噴火を誘発することが懸念されている(拙著『京大人気講義 生き抜くための地震学』ちくま新書)。巨大地震と噴火というダブルショックが首都圏から東海地域を襲い、日本の政治経済を揺るがす一大事となる恐れがある。

 江戸時代には巨大地震が発生した数年後に、富士山が大噴火を起こした事例がある。1703年の元禄関東地震(マグニチュードM8.2)の35日後に、富士山が鳴動を始めた。その4年後の1707年に、宝永地震(M8.6)が発生した。

 さらに、宝永地震の49日後に富士山は南東斜面からマグマを噴出し、江戸の街に大量の火山灰を降らせたのである。ちなみに、この火山灰について江戸時代の儒者・新井白石が『折たく柴の記』に書き残しているが、富士山では最大級の噴火だった。

 宝永噴火は直前の2つの巨大地震が富士山のマグマだまりに何らかの影響を与えて噴火を誘発したと考えられている。例えば、地震後にマグマだまりにかかる力が増加し、マグマを押し出した可能性が考えられる。

 また、巨大地震によってマグマだまりの周囲に割れ目ができ、マグマに含まれる水分が水蒸気となって体積が急増し、外に出ようとして噴火を引き起こしたとも考えられる。いずれにせよ、宝永噴火では、地震被害の復旧で忙殺されている最中に、噴火が追い打ちをかけたのである。

■富士山はいつ噴火するのか

 私たち専門家は「火山学的には富士山は100%噴火する」と説明するが、それがいつなのかを前もって言うことは不可能である。たとえば、雑誌やテレビで富士山噴火を年月日まで明言する人が後を絶たないが、科学的にはまったく根拠がない。

 確かに噴火予知は地震予知と比べると実用化に近い段階まで進歩したが、残念ながら一般市民が知りたい「何月何日に噴火するのか」に答えることは無理なのだ。火山学者が予測できることは、低周波地震の数週間から1カ月ほど後には噴火が始まる可能性が高い、というだけである。

 と言っても、噴火は直下型地震と違って、ある日突然襲ってくるということはない。現在の観測態勢は完璧ではないが、地震や地殻変動などの前兆現象を現在の予知技術は見逃さない。

 火山学者は24時間態勢で、観測機器から届けられる情報をもとに富士山を見張っている。なお、現在(2020年7月)の状態は直ちに噴火につながるものではないことも知っておいていただきたい。

 火山の噴火には予兆があるとは言っても、具体的に噴火する何時間前か、何週間前かはやってみないとわからない。その難しさは「イチ・ゼロ」ではなく、毎回が「想定外」との勝負なのである。未知の自然現象に人間が対処するという点で、新型コロナの対策とも似ているかもしれない。

 こうした状況では、自然災害に対する正確な知識を事前に持ち、起きつつある現象に対してリアルタイムで情報を得ながら、早めに準備することが肝要である。過度の不安に陥るのではなく「正しく恐れる」ことが大切と言えよう。

■ハザードマップを活用せよ

 「噴火のデパート」と呼ばれる富士山では、溶岩流や噴石、火砕流、泥流など多様な被害が発生する(図表3)。特に噴火の初期には、登山客や近隣住民など、富士山のもっとも近くにいる人へ危険が及ぶ。一方、溶岩流は1日〜数週間くらいかけて流れるので、後になってから流域の経済的被害が発生する。

 こうした内容はハザードマップと呼ばれる「火山災害予測図」でくわしく知ることができ、全てインターネットでダウンロードできる。まずハザードマップを入手し、どのような被害が起こりうるのか知識を持っておくことが大切である。

 一方、公表されたハザードマップや国の報告書は、市民の目線で書かれていないので読みにくいという評判も聞く。それを受けて私も富士山噴火の解説書(『富士山噴火と南海トラフ』講談社ブルーバックス)を刊行したが、身近な住まいや仕事にどのような影響があるかを、噴火の前にぜひ知っていただきたい。

 自然災害では何も知らずに不意打ちを食らったときに被害が最大となる。日本は火山国といっても実際に噴火を見た人はそう多くはない。人間は経験のないことに直面したときにパニックに陥りやすい。

 火山灰が降ってきてからでは遅いので、「平時のうちに準備する」のが防災の鉄則なのである。新型コロナの終息が見えない現在、ライフラインの早期復旧手順や避難場所の確保など事前の対策も急務だ。富士山噴火との複合災害だけは起きてほしくない、と火山学者の全員が固唾をのんで見守っている。

———-
鎌田 浩毅(かまた・ひろき)
京都大学大学院人間・環境学研究科 教授
1955年生まれ。東京大学理学部地学科卒業。97年より現職。理学博士。専門は火山学、地球科学。著書に『理科系の読書術』(中公新書)、『世界がわかる理系の名著』(文春新書)『理学博士の本棚』(角川新書)、『座右の古典』『新版 一生モノの勉強法』(ともに、ちくま文庫)など。
———-

京都大学大学院人間・環境学研究科 教授 鎌田 浩毅

目次